動物・環境ニュース
2023/07/05
【魚は喉が渇くのか】
2023年6月19日、Live Scienceで『魚は喉が渇くのか』について検証された面白い記事が書かれていました。魚が生息する海や川の中には、必ず塩分が含まれており、魚は、えらにある塩化類細胞と呼ばれる特殊な細胞で体内の水分と塩分のバランスを調整しています。
また、ニューヨーク市のアメリカ自然史博物館魚類部門の学芸員、メラニー・スティアスニー氏も言っているように、淡水魚と海水魚は正反対の性質を持っています。
淡水魚も、海水魚も他の生物と同じく、生きる上で塩分を必要としますが、それぞれ塩分濃度の異なる環境下で、それぞれ違った方法で体内の塩分濃度を維持しています。
淡水魚は体液よりも塩分の薄い水の中で暮らしており、浸透圧の関係で常に体内に水が入ってきてしまいまいます。そのため、積極的に水を体外に排出し、体内に取り込むようにしています。
一方で、海水魚は、体液よりも塩分の濃い水の中で暮らしていて、常に水が体外に出ていってしまう環境にいるため、積極的に体内に水を取り込み、塩分を排出するようにしているのです。
従って、常に水を欲しているという点では、確かに『海水魚は喉が渇いている』といえます。
この淡水魚と海水魚の性質は以前から言われていることではありましたが、今回このような記事が出たのは、地球温暖化による海水の異常な塩分濃度の変動が関連し、再注目されたようです。
オーストラリアの研究者チームによって、多くの雨が降る熱帯域と高緯度地域の水の塩分濃度は下がり、多くの蒸発が起きる亜熱帯エリアの塩分濃度は高まっていることが発表されました。これは、世界中の海洋に浮かぶ「アルゴフロート」と呼ばれる3,000個以上の水温・塩分測定器のデータを分析して検出されたそうです。
このまま、海水の塩分濃度が変化し続ければ、魚の繁殖や発育、生存までも脅かす恐れがあります。
ホッキョクグマやゾウなどの大きな体を持つ生き物については『住処が失われている』という認識を持っている方も多いかと思いますが、このように小さな魚たちも地球温暖化によって住む場所を奪われつつあります。
種に合った正しい環境を守るためにも、今ある状況をまずは“知る”ことが大切であると考えています。現在置かれている問題を理解して、一人一人が持続可能な地球のための取り組みを行いましょう。
情報提供者:秋庭 琉衣
2023/06/02
【外来生物と特定外来生物】
日本には、人の手により国外から持ち込まれた『外来生物』が多く存在します。そのほとんどが、ペットとして飼われていた個体が野生化し、繁殖したものです。昨今では、この外来生物に対する注目が高まると同時に、『特定外来生物』への関心も強くなっているようです。では、よく聞く外来生物と特定外来生物の違いとは一体、何なのでしょうか。
外来生物、特定外来生物、どちらも共通していえることは、『もともとその地域にいなかったのに、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物』であるということです。それに加えて、特定外来生物には二つの大きな特徴があります。一つ目は、明治元年以降に人為的に持ち込まれた生物であるという点。そして二つ目は、生態系や人の生命・身体・農林水産業等に被害を与えるという点です。そのため、飼育や栽培、保管、運搬、輸入などが原則禁止されており、違反すると、処罰され、場合によっては、3年以下の懲役または300万円以下の罰金を課せられることもあります。
そんな特定外来生物(条件付特定外来生物)にこの6月から新たに『アカミミガメ』と『アメリカザリガニ』が追加されることになりました。
アカミミガメは、通称『ミドリガメ』とも呼ばれ、ペットとして飼っている方も多いです。お祭りの『亀すくい』で使用されることが多いことから、非常に手に入れやすいのですが、好奇心旺盛で人に良くなつく反面、他のカメに比べて少し気性が荒い部分があるため、飼いきれずに川に放ち、野生化したものが全国各地に分布したものと思われます。そして、食性が多岐にわたるので、在来生物に大きな影響をもたらすことが懸念されています。
一方でアメリカザリガニは、捕食によって一部の水生生物の絶滅にも大きく関与する可能性があると言われています。また、ザリガニペストや白斑病などを保菌し、ニホンザリガニを含む在来甲殻類に大きな影響を与える可能性も考えられています。
これらのことから、この2種は特定外来生物に追加されることとなりましたが、どちらも飼育者が非常に多く、単に特定外来生物に指定してしまうと手続きが面倒で野外に放つ人が増えてしまう恐れがあるので、特別に『業として行う場合を除いた飼養は許可がいらない』などの一部の規制を適用除外とする『条件付特定外来生物』に指定されることとなりました。
環境省は、『一度飼い始めたペットは最期まで責任をもって飼い続けてほしい』と強く呼びかけています。併せて、相談ダイヤルを設けて飼育が困難となった方の相談にも応じているようです。
『外来生物』『特定外来生物』たちはもとはといえば、人間の勝手で持ち込まれてきて、飼えなくなって外に放たれてしまった被害者でもあります。
彼らが適切な場所で少しでも幸せに過ごせるように、当団体でもいつかは『外来生物園』のような場所を作れたらと考えています。それと同時に、日本の美しい自然や多種多様な生態系、私達の安全な生活を守るためにも『ペットは最後まで責任をもって飼う』ということを、私達も広く呼びかけていきたいと思います。
2023/02/17
【鳥インフルエンザ拡大による注意喚起】
令和5年2月11日(土)、東京都日野市にある多摩動物公園で鳥インフルエンザに感染した恐れのあるツクシガモが発見されました。さらに、全国各地で野鳥にも感染の報告が上がっており、現在、環境省の野鳥サーベイランスにおける全国の対応レベルは最高の『レベル3』まで引き上げられています。
当団体では、現段階、野鳥の保護受け入れを継続としますが、今後の野鳥受け入れに関しても、引き続き提携している動物病院で鳥インフルエンザの検査を実施し、感染拡大防止に努めて参ります。
皆様も野鳥の保護時、決して素手で触らないよう十分ご注意いただき、死亡している野鳥を発見した際は、お住まいの地域の役所の窓口や保健所までご連絡いただきますようお願い致します。
感染拡大防止の為、何卒ご理解いただきますよう宜しくお願い致します。
また、センターでは現在、収容頭数超過に伴い、哺乳類は保護受け入れを一時停止させていただいております。誠に残念ではありますが、ご了承いただけますと幸いです。
2023/01/27
【野生のチンパンジーとゴリラの絆】
2022年11月3日、Live Scienceで野生のチンパンジーとゴリラの友情関係に関する記事が書かれていました。本来、野生動物は異なる群れ、ましてや異種間ともなると食べ物、交配パートナー、領土などの生きる為の資源を獲得する為に激しい争いが生じます。
しかし、米国ワシントン大学のクリケット・サンズが率いる科学者チームの研究によると、一部地域のチンパンジーとゴリラの間には交友関係が築かれ、一緒に遊んだり食事をしたりといった交友関係が見られるとのことでした。
チンパンジーとゴリラは同じ類人猿で、食性や活動エリアが重なっている部分が多くあります。本当なら生存競争が行われそうなものですが、自らが生きていく為に互いに尊重し、助け合い、共存を可能としているのであれば、私たち人間こそ是非、その姿を学んでいくべきだと痛切に感じました。
そして、チンパンジーやゴリラ以外にも我々人間には計り知れないような興味深い行動を持つ生き物達がまだまだ数え切れないほど存在しているはずです。彼らの住処となる自然を保全することが、また新たな発見に繋がるのではないかと考えています。
情報提供者:秋庭 琉衣
2023/01/13
【イルカの保護を目的とした画期的な取り組み】
現在、世界中で絶滅に瀕している野生動物の種が増加しています。そんな中、2022年12月22日、Science Dailyで『イルカの保護を目的とした画期的な取り組み』に関する記事が書かれていたので、ご紹介したいと思います。今回の記事では、ミシガン大学のエンジニアがドルフィンクエスト・オアフ島の海洋哺乳類の専門家と共同で、イルカ用ウェアラブル端末のデータを使ってイルカが泳ぐときに使うエネルギー消費量を測定し、人為的な妨害によるエネルギーコストを算出することで保全活動へ直接結びつけることができるということが書かれていました。
このように動物が移動時に使用するエネルギー量を知ることで、生きる為に必要なエサの量も推測することができ、そのための生息地や環境の整備等、より具体的な保全に対する取り組みを考えることができます。
我々人間の開発が進歩していく中で、野生動物への被害が出てしまう事実もある一方、その技術によって動物を守ることもできるのだと改めて実感しました。
当団体でも、いずれリリースする全ての動物達に今回の記事で書かれていたような移動時の運動量や移動距離など細かいデータを取れる端末を付け、生息又は生育の状況をより確実に調査し、その個体だけではなくて種としての保全にも携われるようにしていきたいです。
情報提供者:秋庭琉衣
2022/11/18
【高病原性鳥インフルエンザ拡大による注意喚起】
令和4年11月10日、和歌山県にあるアドベンチャーワールドで飼育していたアヒル6羽が死亡しているのが発見され、11日に死亡個体から高病原性鳥インフルエンザが検出されました。その後15日には、モモイロペリカンからもH5亜型の鳥インフルエンザが検出され、アヒル・ダチョウ・エミュー、計63羽の鳥類を安楽殺したほか、 後に発覚したモモイロペリカン5羽もやむなく安楽殺となったそうです。
施設では、既に消毒などの防疫措置を12日朝までに完了した旨が報告されています。
また、同日15日に、香川県丸亀市内の溜池で死亡していたコウノトリからも簡易検査により鳥インフルエンザが検出されました。
現段階では、当団体は野鳥の保護受け入れを継続としますが、今後の感染状況如何により、一時停止とさせていただく可能性もございます。
尚、今後の野鳥受け入れに関しても、引き続き提携している動物病院で鳥インフルエンザの検査を実施し、感染拡大防止に努めて参ります。
皆様にも、野鳥の保護時、決して素手で触らないよう十分ご注意いただき、死亡している野鳥を発見した際は、お住まいの地域の役所の窓口や保健所までご連絡いただきますようお願い致します。
感染拡大防止の為、何卒ご理解とご協力のほど宜しくお願い致します
2022/11/18
チンパンジーが奏でるリズム
2022年9月7日、BBCでチンパンジーのドラミングに関する記事が書かれていました。ウガンダの熱帯雨林でチンパンジーの研究をしていたメンバーによると、チンパンジーは、まるでドラムのように木を叩いてリズムを刻み、その音は、個体ごと・その時々によって異なるそうです。
今回の研究の主任研究員、ウィーン大学の博士課程学生のベスタ・エレウテリ氏はロックやブルースドラマーのように決まったリズムを持つ動物もいれば、ジャズのような変化しやすいリズムを持つものもいる、と語りました。
このドラムは、自然豊かな場所ならではの音の響きを生かした原始的な手法ではありながらも、叩き方によって遠くにいる仲間へメッセージを送ったり、リズムの特徴により、個体識別まで可能なのだそうで、自然を生かした連絡手段を取り入れたチンパンジーの知能の高さには圧倒されます。
『人とチンパンジーのDNAは約99%共通しているが、残りの1%の違いは未だ不明』と言われていますが、こうした、新たなチンパンジーの能力の発見は、謎に包まれた1%を紐解く鍵となるのかもしれません。
情報提供者:とんきち
2022/11/18
マッコリー港におけるゴンドウクジラの集団座礁
環境汚染や地球温暖化による気候変動によって様々な問題が重要視されている中、BBCの記事で、『ゴンドウクジラの集団座礁』に関する記事がありましたので、JWCでもご紹介させていただきます。今回の記事では、2020年・2022年の2度に渡ってオーストラリアのマッコリー港で大量のゴンドウクジラが打ち上げられ、多くの命が失われたことについて書かれています。
ゴンドウクジラは非常に社交性の高い哺乳類で、大規模な群れで密になって移動する習性がある為、よく集団座礁する姿が発見されていますが、今回のように2020年には230頭、翌々年と2022年には500頭と、短い期間に同じ場所で大群が打ち上げられたのは異例とも言えます。
今回の集団座礁について、タスマニア州の海底には緩やかな傾斜があり、ゴンドウクジラの発する超音波の反響で沖にいると勘違いしてしまう為、座礁してしまうのではないかという説も唱えられていますが、はっきりとした要因は分かっていません。
しかし、ひとつの可能性として、『今回の座礁は、気候変動による環境・水温・獲物の生息地の変化によって引き起こされた可能性が高い』と専門家は語っていました。
クジラはとても繊細な性格の持ち主で、エコーロケーションという超音波を使って周辺環境を確認したり、獲物の捕食に役立てる為、少しの環境の変化にも非常に敏感な動物であると言えます。その為、今回打ち上げられた港周辺の環境や海域に変動があったのであれば、クジラがそれに影響された可能性は十分に考えられます。
私達の生活が豊かになる一方で、環境問題は刻一刻と深刻化し、関係のない動物たちが犠牲となっている現状があります。しかし、今、このような動物たちを救うことができるのも私達人間です。この同じ地球という場所で存在しているからには、彼らを敬い、尊重し、本当の意味での共存が実現する未来がくることを願うばかりです。
情報提供者:とんきち
2021/06/25
野生動物の国際取引と国の所得格差
現在、皮肉なことに新型コロナウイルスの蔓延により、野生動物の国際取引が減少する見込みがあると考えられています。それについても、Liew氏は、『もとの状態に戻らないようにするためには、人々がもつ、野生動物を消費することで起こりうる影響に対する認識を利用して、野生動物の需要を減らす必要があります。そして、中国での野生動物の取引禁止を恒久的なものにするのです』と記事の中で語っていました。『Science Advances』誌に掲載された今回の研究では、1998年から2018年の間、国際貿易網の拡大は、貧富の差に開きがある国の間で多く起こっていたことがわかりました。
野生動物商品の最大の輸出国となっていたのは、インドネシア、ジャマイカ、ホンジュラスであった一方、最大の輸入国はアメリカで、大きく間を空けて2位がフランス、3位がイタリアとなっています。
NGO団体のTraffic(トラフィック)が発表した調査報告によれば、2006年から2015年の間のアフリカ圏からアジア圏への輸出だけをみても、130万もの生きた動植物や150万もの動物の皮、2,000トンもの食肉が合法的に輸出されていたこともわかっており、その取引の規模が如何に膨大であるかが示されていました。
今回ご紹介した記事は新型コロナウイルスの蔓延以前の調査報告を掲載している為、それぞれの取引数も2019年度以降は減少している可能性はあります。しかし、根本的な解決に至るまでは険しく長い道のりとなるのではないかと思います。
香港大学のJia Huan Liew氏が語るように、今後も順調に減少してくれることを願うばかりです。
情報提供者:広瀬 詩織
2021/02/24
交通の騒音がもたらす野鳥たちのさえずりへの影響
アメリカから交通騒音が、野鳥たちの生活に影響を及ぼしているという研究結果のニュースが届きました。このニュースによると、アメリカのオレゴン州パシフィック大学のクリストファー・テンプルトン教授が行った実験の結果、交通騒音がある・なしで、ゼブラフィンチ(キンカチョウ)の餌の採集能力に差が生じたというのです。テンプルトン教授の実験では、録音した交通騒音を飼育下のゼブラフィンチに騒音あり、騒音なしの条件で聞かせると、騒音ありの場合、餌を探す能力が低下し、その差は2倍にもなったそうです。騒音による悪影響はゼブラフィンチだけでなく、ほかの種でも同様にみられると考えられ、私たちの身の回りにいる生物にも知らぬ間に悪影響を与えているかもしれません。
別の研究では、実際に交通騒音によって、コオロギの求愛の鳴き声が妨げられ、繁殖相手を見分ける能力が損なわれているという結果報告もあります。
さらに、海洋でのソナーや地震調査、船舶の往来の騒音などが海洋生物のコミュニケーションが途絶えることも明らかになっています。
ケンブリッジ大学の動物学者アダム・ベント博士は、「何十万年もの間行われてきた仲間同士のコミュニケーションに、交通騒音が大規模な混乱を引き起こしていること、長期的に多大な悪影響を及ぼす恐れがあること」に対し、警鐘を鳴らしています。また、イギリスのケンブリッジ州のアングリア・ラスキン大学のソフィー・モウルズ博士からは「人為的な騒音の発生は、環境の特性を絶えず変化させている」との発言もあり、騒音は生物環境に関わる深刻な問題であると言えます。
新型コロナウイルスによる都市のロックダウンでは街が静かになり、野鳥たちのさえずりが変化していました。
今後、私たちが通常の生活に戻れば、再び都市部は騒音が大きくなり、野鳥たちに影響を及ぼすでしょう。
交通騒音の削減は困難な課題ですが、テンプルトン教授は路面や車のタイヤのデザインを変えるなど、騒音を低減させるための工夫の余地はまだまだあると語っています。
人間の生活が豊かになる半面、原住の野生動物たちへ悪影響を及ぼしてしまう現実があるのは事実です。しかし、科学技術が発達した今、人間と野生動物が本当の意味で共生できる環境を作ることも決して不可能ではないと私達も考えています。
今後、技術の開発により交通騒音の影響が低減されることを期待したいと感じました。
情報提供者:大谷 碧