連載読み物

このストーリーは「野生動物は滅びない(佐草一優著)」の続編で、絶滅の危機にある動物たちにスポットを当てたエッセーの中から一部抜粋したものです。毎月いろいろな動物のエッセーが更新されます。お楽しみに。

波光きらめくウミガメの聖地
絶滅のカウントダウンが始まった
自然と対話できる生き物

波光きらめくウミガメの聖地

 鮮烈な光が乱舞するその青き海原に、やがて夕暮れが近づくと、辺りは一変して厳粛な太古の風が吹き始める。青に夕日の赤が溶け込み、水平線で混じり合った二つの原色は、赤紫から紫、そして濃紺へと姿を変えながら、私の立つ岸辺に重厚な闇を運んでくる。その漆黒に大地と海が一体になる頃、ウミガメが一頭、また一頭と濡れた甲羅を闇に輝かせながら、砂浜へと上陸を始める。今年も神秘的なウミガメたちの産卵ドラマが、西オーストラリアの沖合に浮かぶ小さな無人島で人知れず始まろうとしている。

絶滅のカウントダウンが始まった

 ウミガメは、数少ない海棲爬虫類の一種だ。そのウミガメは、オサガメ科とウミガメ科の2科に大別できる。オサガメ科は最大のオサガメ一種のみ、それ以外のアカウミガメやアオウミガメ、タイマイなどの7種は総てウミガメ科に属する。こうしたウミガメの大半が世界中の海を回遊しながら生息している。日本近海でもアオウミガメやアカウミガメがよく見られ、本州や四国、九州で産卵が確認されている。

 しかし、そうしたウミガメのどれもが今、絶滅の危機に瀕している。その原因のひとつは海洋汚染だ。文明が吐き出す化学物質は、容赦なく海に流入し、浄化するひとのない汚染物質を海中に撒き散らす。海にしか生きられないウミガメたちが、その毒素を一身に浴びて弱っていくことは、学者でなくても簡単に理解できる。更に、ゴミとして海洋投棄されるビニル袋やプラスチックは、ウミガメ達の食料となるクラゲとそっくりの見かけをしている。彼らがそれを食べて消化管閉塞を起こし、死に至るケースも後を断たないのだ。

 もうひとつの大きな理由に、彼らの産卵地となる砂浜の消失があげられる。海岸線の開発や堤防の建設などは、数少ないウミガメたちの産卵地を一瞬にして大規模に消失させていく。更に夜でも煌々と明かりが灯し、夜なお騒々しい海岸線は、彼らに上陸を断念させる十分な判断材料となる。また、途上国の誰も見向きもしないような、人里離れた平穏な砂浜にも大きな異変が起きている。近年の温暖化で海面が上昇し、砂浜そのものが波で削られて消失しつつあるのだ。

自然と対話できる生き物

 卵が孵化するのに適した穴を器用に掘り下げ、その中に100個を超す命を産み落としたウミガメたちは、夜が明ける前に海に帰らなければならない。しかし、漆黒の砂浜をがむしゃらにはいずり回って疲労困憊に陥った彼らは、既に海の位置を理解できる方向感覚すら失ってしまっている。そんな彼らを海に導くものは、まばゆい光の道が天から海面へとつながっている天の川だった。南半球の天空にきらめく天の川は、漆黒の闇の中で、圧倒的な存在感で燦然ときらめいていた。そのまばゆい光は海面を照らし、そこにもう一本の光の帯を作っていた。それは、あたかも天空と海が一本の光の帯でつながっているような錯覚を覚えるほどの鮮やかな光の回廊だった。闇に迷ったウミガメたちは、その光の回廊の中をまっすぐに突き進んで行く。彼らは、確かに宇宙とそして地球と対話していた…。

 私たち人間は、文明の中で大自然と語らう術さえ忘れてしまった。古老たるウミガメたちが絶滅してしまう前に、我々人間は彼らに教えてもらわなければならないこと、叱られなくてはならないことが、まだまだ山のようにたくさんある気がしてならない。だからこそ、太古からの語り部を一頭でも多く守らなければならないのだ。

『波光きらめくウミガメの聖地』(C) Kazumasa Sakusa
次回の更新をお楽しみに!
ウミガメ データ
オサガメ科のオサガメ、ウミガメ科のアカウミガメ、アオウミガメ、ヒメウミガメ、タイマイ、ヒラタウミガメ、ケンプヒメウミガメ、クロウミガメの合計8種がいる。最大種はオサガメで甲長が2m、体重が700kgにも達する。日本で馴染みの深いアカウミガメは、甲長1m前後、体重150kg前後でウミガメの中では大型である。
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